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流浪の月

by Ryota Nagashima

夕暮れに見えた月があまりにも綺麗だったから、もう一度見ようと夜に出かけてみたけれど、月はもう見えなくなっていた。

最近になるまで、月は夜になると見えるものだと勝手に思いこんでいて。だけどよく考えたら、夜だから月が見えるわけではないって気付いた。

その事実に気付いてから、形を変えて移りゆく月もなんかいいなって思うようになった。ちなみにそれまでは月よりも星を眺めるのが好きだったから、星のよく見える新月の日を望んでいることが多かったのだけれど。

「事実と真実は違う。」

月の周期は決まっているし、それさえ分かっていれば見たい形の月だって見ることができる。それは紛れのない真実として私たちは認識している。

時々、私のような勘違いもあるけれど。

対して、人っていうのはやっかいで、

見えている部分が真実だって限らないし、

見せたくない部分が見えてしまうことだってある。

「せっかくの善意を、わたしは捨てていく。

そんなものでは、わたしはかけらも救われない。」

昔の私はすこしお節介で、目の前にいる人を分かった気になって言葉をかけていたと思う。

だけど、それで満たされていたのは自分だけで、

満たされる気持ちも一瞬にして無くなってしまった。

私が見えている景色と相手が見えている景色は同じでも、どのように感じているのかは違う。

さらに言うと、同じ景色を眺めている私と相手を見ている"あなた"がどのように見えているかだって違う。

言葉にすると当たり前のことなのに、"あなた"はどうして自分の見え方が正しいように言葉を振りかざすのか。振りかざして少し気持ち良くなって、そして途端に忘れていく。

"あなた"は昔の自分だ。

一丁前にそれっぽいことが言えて、とっても狭い世界で言葉を使っていた。

そんな昔の自分をいまは愛することができていて。だからこそこ更沙の言葉は、ぐさぐさと刺さったんだ。

「そのことを、ぼくという当事者以外でわかってくれる人がふたりもいる。

「事実と真実は違う。」という言葉に続けて、文が放った言葉。

自分がいて相手がいる以上、相手の真実なんて分からない。自分が抱える真実だって、分かってもらえることはない。良いか悪いかではなく、ないと思う。

でも「事実と真実は違う。」ということを理解することはできる。そしてそのことを分かっている人が周りにいることは、自分の中に真実を抱え込んでいる人にとって救いだ。

あの人はどんなことを想って月を見ているんだろうと想像することができる事。そして、相手が想っていることは分からないけれど、好きだと思える事。

そんな事を大切にしたいと思いながら、

甘くて冷たいアイスクリームを口に運ぶ。

凪良ゆう「流浪の月」

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