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地球最北端の地を訪れてーアイスランド・レイキャビックー

by Ryota Nagashima

 息をすると冷気が体に沁み渡り、鼻の奥がツンとする。吐く息はほんのりと白く、久々に感じる寒さだ。静かな海とその先に見える雪のかかった山々を横目に、イヤフォンから流れる音楽に耳を傾ける。流れているのはビョーク。この地で生まれた音楽はどこか大地を感じられるもので独特なメロディを持っている。この土地のアーティストが見ていた景色と同じものを眺めながら音楽を聴いていると、このような感覚は確信に変わる。今流れている音楽はこの地で大自然を眺めながら聴く時に1つの形として完成する。

 歩きながら目的地を確認する為にGoogleマップを開くと、誤操作によって今いる地点を中心に世界が手の中に収まっていく。いま立っている先にあるのはグリーンランドで、アメリカ大陸と欧州に挟まれた位置。見慣れない地図に少し戸惑う。日本はワンスクロールしたら現れた。このワンスクロールが実際の距離ではとんでもなく遠い。

ここはアイスランドの首都レイキャビック 。地球最北端の首都だ。

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  早朝のデンマークを出発して約二時間のフライト。飛行機の窓から見える景色はデンマークのそれとは全く違ったもので、建物は少なく草原が広がっている。飛行機から降りると途端に感じる寒さ。周りを見渡しても半ズボンは僕だけだった。バックパックを担ぎ、空港を後にする。レイキャビックまでは約一時間のバス旅となる。

 空港を離れるとより一層感じる異国感。どことなくモンゴルの光景に似ている。違っているのは草原の色と海の存在くらいだ。ここは自然が人を支配している。そして自然の一部を人間が享受しているのだと感じる。至る所に地熱発電のパイプが見られることから誰でもこの地に訪れたらそう時間はかからずにこのように感じられるはずだ。それらの景色を楽しみながらも、どことなく不安な気持ちを抱えレイキャビックへと向かう。

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 目を覚ますと八時を回っていた。同じ部屋の母と娘の家族が既に出かけていたから、相当深い眠りだったのだろう。レイキャビックで迎える初めての朝はしとしとと雨が降る冷たい朝だった。そそくさと身支度を済ませて、傘を持たずに街へ出る。傘は最初のフライトで無くなってしまった。

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 レイキャビックの街はとてもコンパクトだ。一日あれば歩いて回ることができる。そんな街にいくつもの美術館と博物館があって、最近ではコンサートホールも完成した。カフェにもレストランにもホステルにも必ずと言っていいほど絵画が飾られていて、建物には落書きが多く見られる。不思議なことに落書きに不快感を覚えることはなく、街に溶け込んでいる印象を与える。アイスランドの人々は多くの時間をアートや文学に費やすらしい。冬の間はほとんど日が出ないため、家の中で本を読んだり、絵を描いたりする。そりゃ絵画も溢れるほどに生まれるわけだ。ちなみに僕が訪れた今の季節は日が沈まない。明るい中で眠るのは慣れるものではない。

 そんなレイキャビックを一日かけて歩いて回った。計六つの博物館・美術館はアイスランドの歴史を学ぶのに十分な資料が収められていたし、美術作品も豊富に取り揃えてある。アイスランドのアート作品は大自然の影響を受けて描かれたものが多く、他の国とは違った発展をしていた。

街でおそらく一番の高さを誇る教会にも訪ねた。エレベーターを使って最上階に行きレイキャビックの街を見下ろすと、ここが日本と同じ島国だということが感じられる。一見の価値がある光景だ。

 食事はどれも高いけれど味はとても良い。特にロブスタースープは絶品だった。冷えた体にロブスターの味がしっかりと染みたホワイトスープは堪らない。ロブスターもプリッとしていて食べ応えがあった。雨に濡れながらの観光だったけれど、総じて素晴らしい一日を過ごすことができた。

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 未だにどことなく不安な気持ちを抱えている。バスの窓から見える景色は一時間前とさほど変わらない。時々現れる群れの家畜とゴツゴツとした岩。一層に広がる苔の緑、そしてその先に広がる広大な海。圧倒的な大自然が、僕の存在がいかにちっぽけかを嫌というほどに感じさせる。いつからか人は自然をコントロールできると勘違いして、自然が持つ不確実性を排除した気になり、根拠のない安心感を手に入れた。しかしアイスランドの地ではそれらを感じることができない。それが僕に不安を感じさせる原因だとすれば、僕自身、いかに現代に侵されていたのかが分かる。これからあと半日かけてアイスランドを半周し、ワークの地へと向かうのだ。そこではどんな体験が待っているのか、どんな出会いがあるのか今はまだ分からない。そしてそれらもやはり僕を不安にさせている。

そんな不安をよそ目に羊は悠々と草を食べ、カモメは風に身をまかせて飛んでいる。普段気にも留めない自然がこんなにも僕の感情を揺さぶるなんて。そんな不安を誤魔化すためにせっせと指を動かして文章を紡ぐ。

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 ワークの地へと到着したのは夜の十一時を過ぎた頃だった。一日かけて滝や氷河を見ながらアイスランドを半周した旅はとても刺激的で、自然をありありと感じさせるものだったが、さすがに疲れが溜まった。

ふと辺りが薄っすらとオレンジ色に染まっていることに気がつく。空を見上げると夕焼けと共に虹がかかっていた。虹を見たのはいつぶりだろうか。心が動く。美しい。

アイスランドではどうやら自然が僕の感情を揺さぶるようだ。

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